2019年、クエンティン・タランティーノが放った9作目の長編『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、実在の事件と架空の物語を融合させた異色作です。60年代末のハリウッドを舞台に、落ち目の俳優とスタントマンの友情、シャロン・テート事件という史実、そして映画という芸術の力への賛歌が交錯する本作には、無数の仕掛けとメッセージが込められています。 この記事では、制作背景から演出技法、隠された引用、演技の裏話、作品のテーマに至るまで、25のトリビアを通してその奥深い魅力を徹底解説していきます。
🎬制作と構想にまつわるトリビア
01|タランティーノが10年温めた“記憶の映画”
本作は、幼少期を1969年のロサンゼルスで過ごしたタランティーノが、自身の記憶をもとに10年近く構想を練り続けた作品です。彼にとって“私的ハリウッド史”を語る試みでもあり、映画愛の結晶とも言える一本です。
02|“フィクションが歴史を癒す”という挑戦
実際に起きた惨劇を“起こらなかったことにする”という本作の大胆な試みは、タランティーノの「映画が現実を修復できる」という信念の表れです。
03|“10本で引退”に向けた重要な布石
タランティーノは「10作目で監督業から退く」と公言しており、本作は彼のキャリアにおける集大成的意味合いを持ちます。過去作のオマージュやテーマの回帰が随所に見られます。
04|LAの“再現”ではなく“復元”
本作で描かれる1969年のロサンゼルスは、単なる美術ではなく、実際の地図・建築記録・写真資料に基づき、通りごと“当時の状態”に戻すというレベルで再現されました。
05|削除シーンの量はタランティーノ作品最多級
上映時間約2時間40分に対し、撮影された未公開シーンは5時間分以上。これらはのちにノベライズ版に一部組み込まれ、作品世界の厚みを増しています。
🧍キャストと演技にまつわるトリビア
06|レオナルド・ディカプリオが演じた“不安定な俳優”像
リック・ダルトンはアル中気味で自己評価が低く、キャリアの終わりを恐れているキャラクター。ディカプリオはこの“脆さと焦り”を徹底的に研究し、あえて芝居を“失敗する”演技を取り入れました。
07|ブラッド・ピットが体現した“無言の強さ”
クリフ・ブースは寡黙で暴力的だが、人間的な魅力に満ちた人物。ピットはスタント練習を自ら行い、戦争帰りという設定に合わせて歩き方や立ち姿を設計しました。
08|マーゴット・ロビーが“生きた存在”として描いたテート
セリフが少ないシャロン・テート役に、ロビーは“演技ではなく存在する”ことを意識。観客が彼女の死を知っているからこそ、日常の描写に最大限の愛情が注がれました。
09|“トルーディ”役の子役が示した演技の真髄
撮影現場でリックと共演する少女トルーディを演じたジュリア・バターズは、わずか10歳にして圧倒的な演技力を発揮。彼女とのシーンは映画の“再生”を象徴しています。
10|アドリブと即興が“心の動き”を補強
劇中のリックの楽屋独白やシャロンの映画館での反応など、多くの場面でアドリブが用いられ、登場人物の“内面のうねり”をリアルに可視化しています。
🎥演出と世界観のトリビア
11|フィルムで撮影された“温度ある映像”
本作は35mmフィルムで撮影され、デジタルにはない質感と色味を追求。映像自体が“時代の空気”をまとったような表現になっています。
12|“映画内映画”に宿るもうひとつの現実
劇中に登場する架空の映画やドラマの映像は、時代ごとのフィルム規格やライティングを忠実に再現し、本編と並列の“歴史のレイヤー”として機能しています。
13|ドライブシーンは“視覚のタイムマシン”
劇中頻出するカーシーンは、音楽と街並みの調和で1969年へと観客を“連れて行く”ための装置。あえて長めに描かれる理由は“感覚の同調”にあります。
14|“ハリウッドの裏面”へのまなざし
映画スターとスタントマン、表舞台と裏方、表現と現実──本作はハリウッドの“陰影”を両面から描くことを主軸に置いています。
15|“過去を演じる”という演出のメタ性
登場人物たちは皆“何かを演じている”存在として描かれ、タランティーノは“俳優の人生そのものが演技である”という哲学を視覚化しています。
🎞️映像・音楽・細部に込められた工夫
16|劇中ラジオが“時代を語るナレーター”に
ラジオの音声は実際の放送アーカイブから編集されており、BGMであると同時に“時代の空気”を観客に語る存在となっています。
17|美術・小道具の徹底した時代考証
映画館のポスター、煙草の銘柄、ビール瓶の形状に至るまで、1969年当時のディテールが妥協なく再現されています。
18|衣装が“階層と変化”を語る
落ち目のリックは煌びやかなジャケットを身にまとい、裏方のクリフはシンプルなTシャツ。服装は彼らの立場や心境の“物語”を体現しています。
19|“一瞬しか映らない”小道具が示す世界観
映画内の偽ポスターや劇中劇のチラシなど、画面に一瞬しか映らないにもかかわらず、緻密にデザインされており、“もうひとつの現実”を感じさせます。
20|観客のリアクションを“演出”する
シャロンが自身の出演作を観に行くシーンでは、観客の反応が綿密に設計され、“観る”という行為そのものに感情を重ねる構造が作られています。
🔍テーマと解釈に関するトリビア
21|“過去が書き換えられる”という映画の特権
シャロン・テートの生存という展開は、「フィクションが現実を癒す」というタランティーノのメッセージであり、“映画的正義”の具現化でもあります。
22|暴力の描写に込められた“カタルシスとアイロニー”
ラストの暴力シーンは、史実の痛ましさを映画の力で“反転”させる試み。観客が受ける快感は同時に“倫理的ジレンマ”として機能します。
23|“男の友情”にこそある繊細な愛情
リックとクリフの関係は、上下関係や依存を含むがゆえに一層複雑であり、特に別れの予感を孕む描写に“男同士の哀しみ”がにじみます。
24|映画の中で映画を観るという“二重のまなざし”
本作では複数の登場人物が“観客”となる瞬間があります。これは「観る者こそが映画の意味を与える」というメタ的視点の提示です。
25|“昔話”という形式が持つ“未来への祈り”
「昔々、ハリウッドで…」という語り口は、ただの懐古ではなく、“こうであってほしかった”という映画の願いと再生の物語です。
📝まとめ
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、現実の悲劇を映画の魔法で再解釈した、“記憶の修復装置”のような作品です。 25のトリビアを通じて、あなたもきっと、この物語の中にある“もうひとつのハリウッド”と“もうひとつの希望”を感じ取れることでしょう。