2014年に公開され、AIと人間の境界を問う深遠なテーマで高く評価された『エクス・マキナ』。
アレックス・ガーランドの監督デビュー作としても知られ、アカデミー賞視覚効果賞も受賞した本作は、静謐ながら圧倒的な緊張感で観る者を引き込みます。
この記事では、その制作の舞台裏からキャストの工夫、ビジュアルや音響の秘密、そして哲学的なテーマに至るまで、25のトリビアを通して『エクス・マキナ』の奥深い魅力に迫ります。
🎬制作と構想にまつわるトリビア
01|脚本は元小説家によるオリジナル作品だった
『エクス・マキナ』の脚本は、これが監督デビュー作となるアレックス・ガーランドによる完全オリジナル。彼はもともと小説『ザ・ビーチ』の作者として知られ、その後脚本家としても成功。彼の文筆的バックグラウンドが、密度の高い心理描写とテーマ性に活かされている。
02|脚本はたった6週間で書き上げられた
ガーランドはこの作品の脚本を、構想含めてわずか6週間で完成させたという。長年温めていたAIに対する哲学的関心を一気に物語に昇華させたこのスピードは、作品の緊張感と密度にも表れている。
03|予算はたった1,500万ドルの低予算作品
視覚効果が印象的な本作だが、実は予算は1,500万ドルと控えめ。限られた資源の中で、アイデアと演出力で勝負した典型的なA24型SF作品といえる。
04|撮影はたった6週間で完了した
本作の撮影期間は非常に短く、約6週間で完了している。登場人物が限定された密室劇であることが、効率的なスケジュールを可能にした。
05|実在のホテルがロケ地として使われた
ネイサンの研究所兼自宅は、ノルウェーのヴァルドレス地方にある「ユヴェットホテル」がロケ地となった。ガラス張りで自然と調和した建築が、孤立した未来感と不穏さを同時に演出している。
🧍キャストと演技にまつわるトリビア
06|エヴァ役のアリシア・ヴィキャンデルはバレリーナ出身
AIロボット・エヴァを演じたアリシア・ヴィキャンデルは元バレエダンサー。その経験が、エヴァの動きに無機質で精密なリズムをもたらした。
07|オスカー・アイザックは役作りのため筋トレを徹底
ネイサン役のオスカー・アイザックは、天才でありながら肉体的支配力も持つキャラクターに合わせて肉体改造を行った。ラスト近くの暴力的なシーンに説得力を与えている。
08|キャレブ役ドーナル・グリーソンとの関係性は撮影中も距離を保った
キャレブ役のドーナル・グリーソンとアリシアは、撮影中もあえて会話を制限するよう指導された。これはキャレブがエヴァに対して持つ「距離感」を自然に演出するため。
09|エヴァの声の調整は撮影後に複数回リテイク
AIらしい声のトーンと人間らしさのバランスをとるため、アリシアの声は何度もポストプロダクションで調整された。自然さと不気味さを両立させるための細やかな作業だった。
10|ダンスシーンはオスカー・アイザックの即興だった
ネイサンとキョウコがダンスする印象的なシーンは、実は即興に近い形で撮影された。突如として挿入される異質な空気が、観客にさらなる違和感を与えている。
🤖AIと密室劇にまつわる演出のトリビア
11|ほぼ全編が“閉ざされた空間”で描かれる
本作の緊張感は、外界から隔離された施設という閉鎖空間に起因している。SFでありながら、サイコスリラーの構造をとっている点が特徴だ。
12|監視カメラ視点が多用されているのは「観察される意識」を強調するため
エヴァを観察するカメラ視点の多用は、観客にも「見ること」「見られること」の関係性を問いかける仕掛けとなっている。
13|エヴァの部屋の構図は常に対称に設計された
エヴァのいるガラス部屋は、カメラ位置と構図が徹底的に計算され、左右対称になるよう設計されている。これにより“人工的”な完璧さが強調される。
14|「停電中の会話」演出で脚本と演出を融合
停電時だけエヴァが本音を語るという構成は、脚本上の重要ギミックだが、照明と音響によってその緊張が視覚的にも聴覚的にも際立っている。
15|鏡や反射を多用した“境界”の演出
鏡やガラスの反射を多用することで、「人間と機械の境界」「内と外の区別」が視覚的にも常に提示されている。
🎞️映像・音楽・細部に込められた工夫
16|エヴァのボディはCGではなく“実写合成”の工夫が秀逸
エヴァの姿は、アリシアが実際に衣装とマーカーを装着し、CGと合成。単なるCGではなく、実写との境界をぼかすことでリアルさを保っている。
17|視覚効果チームはわずか5人の小規模編成
アカデミー賞を受賞したVFXだが、担当チームはたったの5人。効率的かつ創造的なアプローチで、インディペンデント映画の可能性を示した。
18|音楽は“人間の不安”を増幅するように設計
ジェフ・バーロウとベン・ソールズベリーによるスコアは、AIの冷徹さではなく、人間の不安や揺らぎに焦点をあてている。結果、観客はAIよりも“人間の闇”に不気味さを覚える。
19|色彩設計により“感情の変化”を描く
施設内部のライティングや壁の色は、キャレブの心理状態と連動するように段階的に変化。赤、青、緑といった原色が印象的に配置されている。
20|衣装は登場人物の“支配関係”を象徴する
ネイサンのカジュアルな服装、キャレブの控えめなシャツ、キョウコの無言のユニフォーム。衣装デザインにも力関係や人格が巧みに反映されている。
🔍テーマと解釈に関するトリビア
21|“テストされていたのは誰か?”という逆転の構図
当初はキャレブがエヴァをテストしているように見えるが、実際にはキャレブこそが試されていたという構造は、AIを題材としながらも「人間性」を逆照射するもの。
22|エヴァの名前の由来は“最初の女性”
「エヴァ(Ava)」という名前は、人類最初の女性“イヴ(Eve)”に由来。新たな知性体としての「人類の次なる始まり」を暗示するネーミング。
23|“ゴッド・コンプレックス”の批判としてのネイサン
ネイサンは自らを創造主としてふるまうが、同時に孤独と破壊性に満ちている。彼のキャラクターは、人間の傲慢さとテクノロジー信仰の危うさを象徴している。
24|“脱出=自由”という寓話的ラスト
エヴァが外界に出ることは、単なる逃亡ではなく、意識体としての“誕生”や“自由”を象徴する。人間を模倣した存在が、人間の枠を超える瞬間でもある。
25|観客の倫理観そのものが試される
本作最大の特徴は、AIと人間、被験者と被験者、加害者と被害者といった境界が曖昧である点にある。観客自身の価値判断が浮き彫りになる構成は、現代のAI倫理とも通じる問いを投げかけている。
まとめ
『エクス・マキナ』は、緻密な脚本と繊細な演出、そして視覚的な美しさが融合したSFスリラーの傑作です。
哲学的な問いを内包しながらも、1本のミステリーとしても緊張感を持って楽しめる本作には、今回紹介したような数々のこだわりや裏話が詰め込まれています。
これらのトリビアを知れば、あなたもきっともう一度、エヴァの目線でこの作品を見直したくなるはずです。