【エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス】マルチバースに隠された25のトリビア【完全解説】

“すべてが一度に、あらゆるところで”を体現した奇想天外なマルチバース作品、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。
このA24製作のアカデミー賞受賞作には、見れば見るほど深まる驚きが詰まっています。この記事では、映画の魅力を再発見できるような25のトリビアを、制作の舞台裏から小ネタ、考察ポイントまでたっぷりお届けします!


🎬制作と構想にまつわるトリビア

01|監督コンビ「ダニエルズ」はミュージックビデオ出身

本作の監督を務めたダニエル・クワンとダニエル・シャイナートは、映画界に入る前はミュージックビデオの演出家として知られていました。特にOK Goの「This Too Shall Pass」や、DJ Snakeの「Turn Down for What」など、遊び心とテクニカルな映像で注目を浴びました。本作にもその感性は生かされており、めまぐるしく展開するマルチバースの映像美には、MV的なテンポと大胆さが宿っています。

02|当初はジャッキー・チェンが主演候補だった

脚本の初期構想では、主人公は中年男性で、なんとアクションスターのジャッキー・チェンが主演に想定されていたといいます。しかし「家族の物語」をより深く描くため、主人公をエヴリンという女性に変更。その結果、母娘関係を軸としたより情感豊かなドラマが誕生しました。変更後もアクションの系譜は受け継がれており、カンフー要素も健在です。

03|脚本完成までに6年を費やした理由

この複雑なストーリーは、実に6年間の構想とリライトを経て完成されました。時間軸が交差し、多次元の“もしも”が織り込まれたプロットは、視覚的にも物語的にも整合性を保つために非常に繊細な設計が必要でした。アイデア勝負のカオスな印象の裏には、緻密な構築と情熱があったのです。

04|低予算ながら圧巻のVFXは5人で担当

大作映画のような視覚効果に圧倒された方も多いでしょう。しかし驚くべきことに、この映画のVFXはたったの5人のクリエイターによって作り上げられました。予算は1400万ドルと控えめでありながら、彼らの創造力とテクニックがその制限を超えていきました。しかもVFXチームの大半は独学だというから、驚嘆するしかありません。

05|編集は“カット職人”ポール・ロジャースが担当

本作のリズム感あふれる編集を支えたのが、ポール・ロジャースという編集者。編集賞を受賞した彼の仕事は、混沌の中にもストーリーの流れと感情の波をしっかりと残しています。カオスに陥らず観客を引き込む絶妙な“間”と“切り返し”が、作品の強度を一層高めました。


🧍キャストと演技にまつわるトリビア

06|ミシェル・ヨーの役柄は彼女自身の人生を反映

主演のミシェル・ヨーが演じるエヴリンは、アジア系移民の母親という役柄。彼女自身もマレーシア出身であり、アメリカでキャリアを築いてきた背景が重なります。彼女は「これは私のための映画だ」と語るほど共鳴を感じていたといい、その熱意はスクリーン越しにも伝わってきます。

07|キー・ホイ・クァン、20年ぶりのカムバック

助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン(ウェイモンド役)は、かつて『グーニーズ』や『インディ・ジョーンズ』に出演した元子役。長く映画業界を離れていた彼が、この作品で華麗な復活を果たしました。彼の演じる“優しさの武器”は、映画の芯にあるテーマでもあります。

08|ジェイミー・リー・カーティスの変身ぶりが話題に

税務職員のディアドラを演じたジェイミー・リー・カーティスは、普段のイメージとは真逆の姿で観客を驚かせました。体型も含めた見た目の変化や、圧のある演技は本作のスパイスとなっています。彼女はこの役のために自ら老け役のメイクにこだわったそうです。

09|役者たちは各“バース”ごとの演技プランを作成

マルチバースを舞台にする本作では、1人の俳優が複数の人格を演じる必要がありました。そこでキャストたちは、それぞれのバースごとに異なるキャラクター設定や声のトーンを自分なりに整理し、全く違う人物に見えるよう演じ分けていました。

10|即興シーンも多く採用された

あまりに自由な世界観ゆえ、現場では即興で演じる場面も多数存在。ミシェル・ヨーは「この作品では“遊ぶ”ことが重要だった」と語っており、その遊び心が多彩な世界を生み出しています。

🎥マルチバース表現と演出のトリビア

11|“ホットドッグの世界”は哲学的な反転ユーモア

エヴリンたちの指がホットドッグになっている世界。突飛なギャグに見えますが、実は「身体が違っても人間は愛し合えるか?」というテーマを込めた、深いメタファーでもあります。奇抜さの裏にある優しさが、この映画の持ち味です。

12|“石の世界”は静寂と感情の対比を狙った

文字通り“石”しか存在しない世界での会話シーンは、台詞が一切なく、テキストのみで構成されます。これはカオスな全体の流れにあえて「静」の時間を差し込むことで、感情の濃度を最大化する演出となっています。観客に“考える時間”を与える重要な場面です。

13|指の間からマスタードが出る特撮は手作り

ホットドッグ世界で、指からマスタードやケチャップが飛び出すシーンは、実はCGではなく特殊な小道具と手作業で演出されています。こうしたアナログな工夫の積み重ねが、映画に“手触り”を与えています。

14|パラレルジャンプのルールはスタッフが厳密に管理

ジャンプに必要な“奇行”や感情トリガーは、シーンごとに設定されており、物語全体に統一感を持たせるためルールブック的なガイドラインが存在していたそうです。マルチバースという混沌を成立させる裏には、細かな整備がありました。

15|“宇宙バッグル”は虚無の象徴として機能

敵キャラ・ジョブ・トゥパキが生み出した「すべてを飲み込むベーグル」は、ただのギャグに見えて実は“ニヒリズム”=「すべてが無意味」と感じる心の象徴。映画全体の構造がこのベーグルを中心に回っており、視覚的にも哲学的にも巧みに設計されています。


🎞️映像・音楽・細部に込められた工夫

16|カンフーアクションは香港映画リスペクト

アクションシーンにはジャッキー・チェンやブルース・リーに代表される香港アクション映画のDNAが脈々と流れています。振り付けも香港スタイルを意識して構築され、カットの繋ぎ方までそれを再現する工夫が凝らされています。

17|音楽はスイスのバンドSon Luxが全編担当

全体のスコアを手がけたのは、実験音楽グループ「Son Lux」。SF的でありながら感情を揺さぶる音楽は、映画の世界観に寄り添うように構成され、観客の感情に強く作用しています。ちなみに全スコアはパンデミック中にリモート制作されたとのこと。

18|衣装は1人のデザイナーが全バース分を制作

複数の世界が描かれる本作では、衣装もバリエーション豊富。これらをすべて手がけたのがシャーリーン・リーというデザイナーで、エヴリンの“映画スター版”や“寿司職人版”など、あらゆる衣装を個別に設計しました。

19|原題“Everything Everywhere All at Once”の語順は熟考の末

タイトルの語順は何度も入れ替えられた末に、「すべて」「あらゆる場所」「一度に」という今の形に落ち着いたそうです。この順序により、“圧倒的な情報の洪水感”と“感情の渦”が表現されることが意図されています。

20|“宇宙跳躍の音”に歯ブラシやガラス音を使用

ジャンプシーンのサウンドエフェクトには、なんと電動歯ブラシの振動音やガラスをこする音など、日常音が巧妙にミックスされています。これにより“異質だけど馴染み深い”音が生まれ、観客に不思議な感覚を与えるのです。


🔍テーマと解釈に関するトリビア

21|物語の本質は“親子関係の修復”

多次元を駆け抜ける派手な展開の裏で、物語の中心にあるのは母と娘の和解という極めて人間的なテーマ。エヴリンとジョイの関係を通して「受け入れることの大切さ」「家族の再定義」が描かれています。

22|“やさしさは最強の武器”という裏テーマ

夫ウェイモンドの行動はすべて「やさしさ」をベースにしています。暴力に頼らず、言葉と共感で他人を変えていく姿勢が、結果的に宇宙を救うという逆転構造は、多くの観客に深い感動を与えました。

23|バグやカオスは“現代社会の映し鏡”

情報過多、SNS、アイデンティティの混乱といった現代人の悩みが、本作の“多次元の混沌”に象徴されています。見る者それぞれが、自分なりの“バース”を重ねることができるのも、この作品の強みです。

24|“すべては同時に起きている”という哲学

映画のラストでは、すべてのエヴリンがそれぞれの世界で自分の選択をしています。これは「どの人生にも意味がある」というメッセージであり、観客にも「あなたの選択が、唯一無二の宇宙だ」と優しく語りかけてきます。

25|ラストシーンの“耳鳴り”に隠された意味

エンドシーンで、一瞬“耳鳴りのような音”が入ることに気づいた方もいるかもしれません。これは、エヴリンが“すべての音を受け入れた後の静寂”とも解釈でき、彼女の心の変化を象徴しています。音ひとつでエモーションを語る、美しいラストです。

🧾まとめ

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、マルチバースという奇抜なテーマの奥に、普遍的な「人と人との関係」が描かれた傑作です。トリビアを知ることで、初見では気づかなかった細部にも意味があると気づけるはず。

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