2023年、カンヌ国際映画祭でも話題を呼んだウェス・アンダーソン監督の『アステロイド・シティ』。
舞台劇と映画の二重構造を用いたユニークな語り口と、トレードマークであるシンメトリーな構図、そして豪華キャストによる群像劇で高く評価されました。
この記事では、その制作秘話からキャストの裏話、演出の工夫、深層に込められたテーマまで、25のトリビアを通して『アステロイド・シティ』の魅力をひも解いていきます。
🎬制作と構想にまつわるトリビア
01|舞台劇と映画の“二重構造”で描かれた物語
本作は「アステロイド・シティ」という映画世界と、その制作舞台裏を描く“劇中劇”構造を採用しています。劇世界と現実の境界を曖昧にしながら、物語と作者性についてのメタ的な視点を提示しています。
02|共同脚本は盟友ローマン・コッポラ
ウェス・アンダーソンの長年のコラボレーターであるローマン・コッポラが脚本を共同執筆。彼の脚本参加により、舞台的な構成美と内省的なテーマが融合した形になっています。
03|脚本はパンデミック中に執筆
新型コロナウイルスによるロックダウン中、アンダーソンは孤独な環境で本作の脚本を集中執筆したと語っています。その孤立感が作品の静謐なトーンにも反映されています。
04|モデルは1950年代のアメリカTVドラマ
本作のメインパートである“アステロイド・シティ”部分は、1950年代のTVドラマ『Playhouse 90』や『Studio One』などからインスピレーションを得ています。ノスタルジックで洗練された雰囲気を演出しています。
05|ロケ地はスペインの田舎町
物語の舞台はアメリカ南西部の架空の町ですが、実際のロケはスペイン・マドリード郊外のチンチョンという町で行われました。乾いた大地が西部劇的な美しさを引き立てています。
🧍キャストと演技にまつわるトリビア
06|豪華キャストが勢揃いの群像劇
ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ティルダ・スウィントンなど、多彩な俳優陣が登場。彼らの演技が、短時間でも濃密な人間模様を描き出しています。
07|ジェイソン・シュワルツマンは初の“主演”
長年アンダーソン作品に出演してきたシュワルツマンですが、今作で初めて正式に主演ポジションに。彼の繊細な演技が、作品全体の感情の核を担っています。
08|スカーレット・ヨハンソンの役柄はマリリン・モンローがモデル
ヨハンソン演じる女優ミッジ・キャンベルは、1950年代のセックスシンボルであったマリリン・モンローを彷彿とさせるキャラクターとして設計されました。
09|トム・ハンクスはアンダーソン作品初参加
名優トム・ハンクスは今作で初めてウェス・アンダーソン映画に出演。普段とは異なるシュールな世界観の中でも、重厚な存在感を見せています。
10|一部キャストは声だけの出演
マーゴット・ロビーやウィレム・デフォーなど、一部の有名俳優は実写の登場シーンがごく短く、あるいはナレーションなど声の出演にとどまっています。あえて観客の予想を裏切る構成です。
🎥演出と世界観のトリビア
11|緻密に設計されたジオラマ的世界観
『アステロイド・シティ』の町並みや建物は、まるでジオラマ模型のように緻密に作られています。これはアンダーソン監督の美術的感性が最大限に発揮された部分です。
12|シンメトリー構図の徹底
今作でもアンダーソン特有の左右対称の構図が多用されており、観る者に視覚的な安心感とスタイリッシュな印象を与えています。特に窓越しのショットが象徴的です。
13|4:3比率とカラーの切り替え演出
“劇中劇”と現実パートで画面比率や色調が異なる演出がされています。舞台パートはモノクロと4:3、映画パートは鮮やかなカラーとワイドスクリーンで区別されています。
14|宇宙人登場のシーンは特撮的表現
本作で突然登場する“宇宙人”は、CGではなく着ぐるみとストップモーションを合わせたようなレトロな手法で描かれています。奇妙でユーモラスな異物感を意図した演出です。
15|セリフ回しは詩のようにリズミカル
アンダーソン作品の特徴である“リズムのあるセリフ”は今作でも健在です。とりわけ登場人物たちの淡々とした口調と、妙に詩的な語彙が独特の空気を生み出しています。
🎞️映像・音楽・細部に込められた工夫
16|撮影監督はロバート・イェーマン
アンダーソンのほぼ全作品で撮影を手がけるロバート・イェーマンが今作でもカメラを担当。計算し尽くされた画作りで、視覚的統一感を支えています。
17|アレクサンドル・デスプラによる音楽
フランスの作曲家デスプラが、ノスタルジー漂う楽曲を提供。マンドリンやスライドギターを用いたスコアは、西部劇とミステリアスな世界観を見事に融合させています。
18|衣装デザインはアメリカン・ヴィンテージ全開
衣装は1950年代アメリカをベースにしたレトロ感たっぷりのヴィンテージスタイル。色彩もシーンごとに厳密に統一され、世界観にリアリティと夢想性を両立させています。
19|小道具には膨大な“架空史料”が
町の看板や展示物、新聞など、すべてが架空のもので構成されています。中には一瞬しか映らない小道具にも細かなストーリーが用意されており、リプレイ欲を刺激します。
20|タイムカプセル的な“郷愁演出”
ラジオの音、雑誌の広告、研究者のメモなど、1950年代という時代に対する愛情と郷愁が全編に満ちています。観客の記憶に触れるような細やかな演出が光ります。
🔍テーマと解釈に関するトリビア
21|「物語とは何か」が中心テーマ
『アステロイド・シティ』は、登場人物たちだけでなく、脚本家や演出家など“物語を作る側”の視点を取り込むことで、そもそも「なぜ物語を語るのか?」という問いを観客に投げかけています。
22|“悲しみ”と“受容”を描いた寓話
主人公のオーギーは妻を失った直後の父親。彼が感情をどう処理し、子どもたちと向き合っていくかという物語は、死と再生を静かに描いた寓話としても読めます。
23|現実とフィクションの曖昧さ
現実とフィクション、映画と舞台の境界線を曖昧にする構造は、観客自身の“視点”を揺さぶります。物語をどう受け取るかは、観客の解釈に委ねられています。
24|“宇宙人”はメタファーでもある
劇中に登場する宇宙人は、未知なるもの=死や悲しみの象徴として機能しています。異質な存在をどう受け入れるかが、登場人物たちの成長とリンクしています。
25|メタ演出が伝える“創作”の本質
舞台裏を描くことで、「演技とは何か」「創作とはどんな行為か」という問いが浮かび上がります。ときに感情を超越し、ときに現実より真実に近づく——それが創作の力だと本作は語っているのです。
📝まとめ
『アステロイド・シティ』は、緻密な映像設計とユニークな構造を持つだけでなく、「物語ること」そのものを見つめ直すメタフィクションの傑作です。
こうしたトリビアを知ることで、本作がいかに奥深く、多層的に作られた映画かが見えてきます。
あなたもぜひ、再び“観る視点”を変えて『アステロイド・シティ』に降り立ってみてください。